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相殺の主張による方法

相殺とは

相殺とは、当事者が互いに相手方に対して債権を持っている場合、その対等額についてぞれぞれの債権を消滅させるものであり、一方当事者の意思表示のみによる法律行為であります。

相殺の効果

相殺を行うことにより、その適用を受ける対等額の範囲でそれぞれの債権が消滅するわけですから、事実上、債権を回収したことと同じことになるというものであります。

とりわけ、相手方の資力が悪化している場合、その者に対する支払請求権があるからといっても、現実に支払いのために充てる財産が存在していないのであれば、その者への取立行為は現実的にはほとんど無意味ですが、この相殺による事実上の債権回収方法によれば、そういった場合の危険回避の手段として非常に有効であるといえます。

また、たとえば銀行が貸付を行う場合、相殺をされる側の債権が差押を受ける等の一定の事情が生じた場合、弁済期まで支払いを待ってもらえる利益である“期限の利益”を直ちに失い、弁済期が到来しものとみるとする特約(=「期限の利益喪失約款」)を付けておき、さらに、債務者が他の債権者から差押を受けた場合、特段相殺の意思表示をすることなく銀行側は相殺をしたものとみることができるという特約(=「相殺予約」)も併せて付けておくことにより、債務者の資力が悪化の場合に、可能な限り他の債権者に先んじて債権回収できるような工夫をこらしています。

なお、相殺の効果発生時期は、相殺可能となった状態(=「相殺適状」)の時期にまで遡っていくこととなります。

相殺によることのメリット、デメリット

メリット

  1. 一方的意思表示によるものなので、相手方の合意を取りつける必要がない。
  2. 対等額で消滅するため、その範囲での現金を工面する必要がない。
  3. 仮に相手方の持っている債権が別の人物に譲渡されても(=債権譲渡の通知があっても)、従来の相手方に対して相殺できる場合であれば、相殺の主張をもって、その対等額分についての支払いを拒むことができる。
  4. 消滅時効にかかった債権であっても、それ以前に相殺可能な状態にあった場合、なお相殺の主張をすることにより、対等額において、相手方の支払請求に対して拒絶することができる。

デメリット

  1. 不法行為を発生原因とする相手方の債権に対して、相殺の主張により支払いを拒むことはできない(ただし、双方とも不法行為に基づく債権である場合は例外あり)。
  2. 金銭債権についてのみ行使可能な方法であること。

※少額訴訟は、裁判手続であることに変わりはないので、勝訴の判決を獲得できた場合は強制執行可能なほどの実効性があり、かつ手続き上の簡易・迅速性にも優れたものでもあります。しかし、具体的事案およびお客様のご意向如何等によっては、必ずしも最善の方法とはいいきれないものといえます。したがって、その手段選択の判断は高度の法的専門性を要するものですので、ご検討の際は、ぜひ専門家に一度はご相談されることをおすすめします。

相殺の手続方法

相殺適状の確認

まず相殺をするためには、双方の債権において相殺可能な状態、すなわち“相殺適状”にあることが必要ですが、その具体的内容は、

  1. 両当事者の債権が互いに有効に存在していること
  2. 双方とも同種の目的を有する債権であること(=金銭債権と金銭債権)
  3. 少なくとも、相殺をしようとする者の債権が弁済期にあること
  4. 性質上、相殺を許す債権であること
  5. 相殺が禁止されていないこと

を意味します。

1,については、既に時効にかかった債権であっても、それまでに相殺可能な状態であったならば、例外的に相殺をすることが認められます。2,は、双方の債権が金銭の支払についての債権であることと読み替えて下さって結構です。また、3,についてですが、明文上は、双方の債権がともに弁済期にあることが必要な体裁となっているのですが、そもそも、弁済期まで支払いを待ってもらえること、すなわち期限の利益は基本的に債務者のためにあるものですから、相殺をしようとする者が自分の期限の利益について放棄することはかまいませんので、事実上、自分の債権についてのみ弁済期にあればよいということとなります。4,の例といたしましては、たとえば、相殺する者の側の債権が売掛代金の支払請求権であるとして、“あなたが商品を引き渡さなければ、こちらも支払いません”と言われてしまうような状況のとき、つまり、いわゆる「同時履行の抗弁権」が付いてしまっているような場合であれば、その債権をもって相殺することはできなくなるというようなことが挙げられます。さらに5,についてですが、賃金(ただし、4分の3まで)、年金等の差押が禁止されている債権および不法行為を原因とする債権等の場合、その支給の実効性を確保する等の目的から、相殺に供される債権とすることが禁止されています。

次に、相殺は相手方に対する一方的意思表示であるため、その合意を取り付ける必要はないものの、それだけにいつその意思表示をしたのか、等を後で法的に証明できる形での通知をすることが肝心です。具体的には、内容証明郵便による方法が一般的であると言えるでしょう。
これにより、後日の紛争防止のためになしうる手続での通知を行ったということになるわけです。

相殺契約

互いに相手方に対して同種の債権(=金銭債権)を有している場合、その対等額で消滅させるというのは、何も一方当事者のみの意思表示による場合だけとは限りません。当事者同士における契約によっても、法定されている相殺と同様の効果を発生させる内容の合意をすることは可能であります。

むしろ、一方的意思表示であり、かつ相殺適状という条件のクリアを必須とする通常の相殺による場合よりも、当事者間での手続の現実的円滑性の向上等を図れるという面では優れているかも知れません。

ただ、契約でありますから当事者間での合意が必要ですので、相殺に供する債権発生の原因となったお取引後、少なくとも相手方の資力悪化の兆候がみられる以前の段階で、条件付等の形であっても、契約内容を文書で残しておくことが必要であるといえます。

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